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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第378回症例症例:呈示
第 378 回 東京レントゲンカンファレンス[2017年9月28日]
症例5 40歳代 女性
絨毛癌
choriocarcinoma

 

 画像所見
   
単純CT  
img 腹水貯留あり
血性を考える濃度上昇
 
後期動脈相coronal/門脈相sagittal
img
子宮体部前壁左側〜子宮頭側〜背側にかけてextravasationあり
 
後期動脈相/門脈相
img
内腔へ突出する多血性病変が散在
子宮体部は軽度の壁肥厚と内腔拡張の印象
   
門脈相
 
img 左付属器に嚢胞性病変
     
肺野条件/HRCT
   
img   img
  周囲すりガラス影(+)
両肺びまん性に不整形結節が散在  

 

       
後期動脈相 
  単純CT    
img   img 両腎に微小結石あり
卵巣は正常大に同定される    
       


 CT所見まとめ

・血性腹水あり
・子宮体部から腹腔内に及ぶextravasationあり
・子宮内腔へ突出する多血性病変が散在
・子宮体部は軽度の壁肥厚と内腔拡張ある印象
・左付属器に嚢胞状病変
・肺野には、周囲にすりガラス影を伴う不整形結節がランダムに分布
・両腎に微小結石あり

 

来院後経過
・臨床は異所性妊娠を疑い、出血コントロール目的に緊急手術。
・腹腔内は出血+凝血塊が多量。
・子宮は手拳大。左卵管角〜卵管にかけて嚢胞状の腫瘤あり、易出血性あり。
・卵管角妊娠を疑い子宮筋層含め左卵管切除術施行。
・卵管に割を入れたがGSなし…
・子宮表面からの持続的な出血あり、子宮摘出施行。

 

最終術式:腹腔鏡下子宮全摘、両側卵管切除

手術時間:2時間9分
出血量:術中出血  少量 
    腹腔内出血 1757ml


 

 病理所見
 
マクロ所見

9.5×8pの子宮摘出検体。
腫瘍はびまん性、内向性に増殖。
img
 
ミクロ所見
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左卵管と子宮体部にN/C比の高い大小不同の異形トロホブラストが増殖。
絨毛形態なし。
出血、壊死を伴う腫瘍は子宮筋層に浸潤。

 

診断 :絨毛癌(choriocarcinoma)

 

 絨毛癌

・異形成を示す栄養膜細胞の異常増殖からなる悪性腫瘍。
・変性、出血、壊死を伴う充実性腫瘤を形成。
・妊娠性、非妊娠性に大別される。

(本症例で術後に聴取されたこと)
・8経妊4経産、最後の妊娠は18か月前の流産。
・9か月前より月経なし
・出血の持続は3か月前よりあった
 →妊娠性絨毛癌と考えられる

絨毛癌の疫学
・妊娠性絨毛性腫瘍のうち、80%は胞状奇胎、15%が侵入奇体、5%が絨毛癌である。
・絨毛癌の先行妊娠は胞状奇胎が50%、流産が25%、正常妊娠が20%、子宮外妊娠が5%である。
・富裕な階層と比べ、社会経済的に低い層では胞状奇胎の発生頻度が10倍高い。
・O型の男性、A型の女性の組み合わせは特定のリスクがある3)
3)Mohammadjafari R, et al. IJFS 2010;4:1-4. 

絨毛癌 MRI所見
・MRIではT1WI高信号、T2WI不均一な信号強度
・近傍に拡張した栄養動脈flow voidが見られる。
・T1WIで出血を反映した高信号域の混在をみることもある1)
・ダイナミックMRIでは絨毛組織が早期濃染2)
1)Hricak et al, Radiology 161 : 11-16, 1986
2)Yamashita Y et al, Acta Radiol 36: 188-192, 1995

絨毛癌の予後
・メトトレキサート、アクチノマイシンD、エトポシド3剤を含む多剤併用療法が初回治療として選択され、寛解率は80%程度4)
・化学療法抵抗性病変や制御困難な出血などに対して、子宮全摘出術や転移巣の外科的切除が行われる
・転移は肺>腟>骨盤内組織、脳、肝、その他(腸管、腎臓、脾臓)
 4)日本婦人科腫瘍学会 がん治療ガイドライン

絨毛癌肺転移所見について
1)typical metastasis(discrete type)
2)alveolar metastasis(miliary infiltration、snowstorm pattern)
3)embolic metastasis(腫瘍塞栓)
Libshitz HI, Baber CE, Hammond CB :  Obstet Gynaecol 1977 ; 49 : 412―416
Seo et al, RadioGraphics 2001; 21:403–417

特殊な絨毛癌転移〜脾転移〜
転移巣からの出血が絨毛癌死因の 42% を占める
Satoko Irei et al, Jpn J Gastroenter ol Surg 42:1637―1641, 2009

術後経過  
動脈相axial/動脈相sagittal  
img ・術後診察にて、腟口より1p前後12時方向に
 5p大の腫瘤あり、易出血性、壊死あり→腟転移
・ファーストラインの化学療法施行

術後化学療法後3か月のfollow up CT
・不整形結節はほぼ消失

 

 Take home points

・絨毛癌では先行妊娠から長期を経て発症するものが少なくない。
・性成熟期女性の腹腔内出血を認めた場合には、絨毛癌を鑑別に必ず入れるべきである。
・性成熟期女性の多血性転移性腫瘍(特に肺、脳)をみたら、絨毛癌を原発巣として疑う必要がある。

 

 


参考文献

  • 田中優美子著 産婦人科の画像診断 金原出版株式会社
  • 日本産婦人科学会、日本病理学会編 絨毛性疾患取り扱い規約第3版 金原出版株式会社
  • 日本婦人科腫瘍学会 がん治療ガイドライン 金原出版株式会社
  • Satoko Irei et al, Jpn J Gastroenterol Surg 42:1637―1641, 2009
  • Hricak et al, Radiology 161 : 11-16, 1986
  • Yamashita Y et al, Acta Radiol 36: 188-192, 1995
  • Mohammadjafari et al.IJFS 2010;4:1-4.

 

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