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第 391 回 東京レントゲンカンファレンス[2019年4月25日]

症例5 40歳代 男性:排尿時痛
ビルハルツ住血吸虫症
schistosomiasis haematobia

 

 住血吸虫症(Schistosomiasis)

・5000年前より知られ、古代エジプト人は虫が原因で血尿・血便が起きる病として認識。
・淡水に生息する巻貝を第一宿主とするschistosoma 群の吸虫による感染症で、人に感染するのは5種類。
 日本で撲滅宣言がなされた日本住血吸虫症はその内の一つ。
・流行地域はアフリカ・南アメリカ・カリブ海地域・中東・アジア。近年旅行者感染症としても重要
・罹患者は2億人、熱帯/亜熱帯地方でマラリアに次ぐ寄生虫感染症.85%がアフリカに集中。
・症状により腸型と泌尿生殖器型に分類。泌尿生殖器型はShaematobiumのみ。

 

 ビルハルツ住血吸虫症(Schistosomiasis haematobia)

《初期症状》
・セルカリアが皮膚に侵入→皮膚炎
・シストソミュールが肺を通過→呼吸器症状
・体重減少・発熱(約5週間後)
・虫卵が膀胱に堆積→膀胱炎・排尿障害・血尿・血精液症(約10-12週間後)
   
・確定診断には尿中の虫卵を検出。
・死んだ虫卵が膀胱の壁内・壁周囲や尿管に堆積.細胞性免疫応答により肉芽形成・石灰化・線維化。
・プラジカンテルは成虫を駆除し、単回投与で60-90%の症例で完全駆除に成功する。

-画像所見-
膀胱
・浮腫や偽結節を反映した壁不整 →乳頭腫形成
・死んだ虫卵が膀胱粘膜下に堆積 →石灰化(虫卵10万個/1ml)
・石灰化は次第に線状から全周性になり、膀胱容積減少。
・SCCを合併(25%の症例で多発,乳頭腫と類似)
・所見は膀胱三角部から底部より変化が始まり、遠位尿管へと進展する.約半数で生殖器にも及ぶ。

尿管
・約65%の患者で所見あり。初期は溢流により拡張→線維化の進行により狭窄。
・尿管に沿った線状の壁石灰化が特徴的。

 

 膀胱壁の石灰化の鑑別

●腫瘍性病変
膀胱腫瘍(carcinoma、卵巣癌・直腸癌の浸潤、neuroblastoma)、放射線照射後
   
●炎症性病変
結核、膀胱壊死(骨盤内放射線照射後・Stevens-Jonson症候群・cyclophosphamide膀胱炎)、alkaline-encrusted cystitis
    
●その他
アミロイドーシス、憩室の石灰化、シスチン尿症、血腫、副甲状腺機能亢進症、wilson病

 

 Take home message

・膀胱壁石灰化を示す疾患の鑑別の一つとしてビルハルツ住血吸虫症も考慮する。
・旅行者感染症としても重要。日本人だからといって否定できない。
・扁平上皮癌合併に注意.定期的検査が必要。

 


参考文献

  • POLLACK, Howard M., et al. American Journal of Roentgenology, 1981, 136: 791-797.
  • SHEBEL, Haytham M., et al. Radiographics, 2012, 32: 1031-1046.
  • ALLEN, G.P.Ross M., et al. N Engl J Med, 2002, 346 : 1212-1220