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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第393回症例 症例:呈示
第 393 回 東京レントゲンカンファレンス[2019年6月27日]
症例6 50歳代 男性
Co中毒
carbon monoxide poisoning

 

 経過まとめ

・約1ヶ月の経過で進行する認知症状
・治療抵抗性の拡大する白質病変
・HIVを含む感染症抗体・甲状腺自己抗体の上昇なし
・炎症反応・sIL-2R上昇なし


 大脳白質病変を伴う認知症の鑑別

・変性疾患(神経核内封入体病)
腫瘍(血管内悪性リンパ腫)
中毒(CO中毒)
・感染症(HIV脳症)
・自己免疫疾患(橋本脳症)
・血管炎(原発性中枢神経系血管炎)

 

 血管内悪性リンパ腫

・皮膚および中枢神経系を侵しリンパ節は侵さない
・浸潤した臓器の毛細血管内に主として認められる
・原因不明の亜急性進行性の神経症状を呈する
・血清のLDH・ sIL-2Rが上昇する
・全身症状(発熱、異常な寝汗、10%以上の体重減少)

血管内悪性リンパ腫;画像所見
大小不同、多発性の大脳白質病変(小血管の梗塞)
多発性の出血(出血性梗塞や出血性壊死)
img

血管内悪性リンパ腫:本症例で合わない点
・血清のLDH, sIL-2R上昇なし
・全身症状に乏しい
・皮膚生検で異常なし
・ステロイドに反応しない
・出血病変や異常な造影効果はなし

 

再度家族より問診
・離婚後独居
・生活保護受給を考えるなどお金に困っていたようだった。
・本人の車内に使いかけの練炭が見つかった。
間歇型CO中毒


 CO中毒

・COは炭素の不完全燃焼によって発生
・COはヘモグロビンに対する親和性が酸素の20倍高い
・COHbを形成して酸素の輸送を阻害しanemic hypoxiaを来す
・疑われる場合には直ちに血中COHbを測定する
時間が経つと正常化、本例でもCOHbは正常範囲内

臨床型
急性型・・・暴露後すぐに発症し回復
間歇型・・・暴露から意識清明期をはさみ遅発性脳症
臨床画像vol.29, No.3, 2013


急性期;淡蒼球壊死
・COは鉄含有量の多い部位(淡蒼球、黒質緻密帯)でヘム鉄と直接結合し組織毒性を示す。

間歇型の病態
虚血とその後の再酸素化による再灌流障害
CO貯留によるペルオキシダーゼ活性による脂質の過酸化
ミトコンドリア内のチトクロームcオキシダーゼ障害によるエネルギー産生障害
びまん性の髄鞘脱落と軸索の崩壊・消失

間歇型;画像
深部白質のT2強調像高信号
ADC低値は予後不良の可能性
AJNR 2003, 24 (8) 1592-1597.


 

 結語

・暴露歴が明らかでない場合(特に独居)やCOHbがすでに正常化している場合には診断に苦慮する。
・深部白質病変は非特異的な所見であるが、治療にもかかわらず進行する白質病変の際にはCO中毒の可能性を考慮すること。

 

 


参考文献

  • Korogi Y :AJNR Am J Neuroradiol 15:1575-1578, 1994.
  • 神澤 朋子: 臨床神経 2014;54:234-237.
  • WC Lin.: AJNR Am J Neuroradiol 30:1248−55, 2009.

   
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Moderator: 大平 健司