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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第398回症例 症例:呈示
第 398 回 東京レントゲンカンファレンス[2022年11月24日]
症例2 20歳代 女性
消化管外アニサキス症
extra-gastrointestinal anisakiasis

 

 画像所見
   
単純/造影CT(axial) 単純 / 平衡相
img
・左下腹部に脂肪組織を含む腫瘤様病変
・周囲脂肪織濃度の上昇
 
造影CT(coronal)/平衡相
img
胃体部大彎側から腫瘤へ流入する血管

画像所見のまとめ

・左下腹部に脂肪組織を含む腫瘤様病変を認める。
・病変周囲に脂肪織濃度上昇を認める。
胃体部大彎側から腫瘤へ流入する血管を認める。
大網の腫瘤様病変と考えた。


 鑑別:大網の腫瘤様病変

【非腫瘍性】
大網捻転
腹部寄生虫感染症
腹膜垂炎

【腫瘍性】
・肉腫
・血管周皮腫、平滑筋腫、脂肪腫
・デスモイド、線維腫、中皮腫など
Barel O, et al; Gynecol Oncol Rep 17: 75-8, 2016.

腹痛と大網腫瘤性病変の位置が一致していた。
→腹痛を起こしうる非腫瘍性病変が鑑別上位
→その中でも大網捻転の可能性が疑われ、緊急で大網部分切除術が施行された。

 

   
手術切除標本  
img 大網の腫脹(+)(壊死や捻転、腫瘍なし)
双葉状側索 img レネット細胞と 双葉状側索
好酸球膿瘍 好酸球浸潤

 

最終診断:消化管外アニサキス症



 消化管外アニサキス症

【概念】
・アニサキス症は海鮮魚類を経口摂取し、アニサキス亜科の3期幼虫が主に消化管に穿入し発症する内臓幼虫移行症である。Hochberg NS, et al; Clin Infect Dis 51: 806-12, 2010. ・アニサキス幼虫が消化管外に寄生する過程としては虫体が消化管を穿通して腹腔内に脱出し、大網や腸間膜などに移行し、肉芽腫を形成すると考えられている。石倉ら; 北海道医誌 63: 376-91, 1998.

【疫学】
・本邦でのアニサキス症の頻度は年間2000例程度と報告されている。
・消化管外アニサキス症は稀であり、アニサキス症全体の0.45%に過ぎないとされている。吉川ら; G.I.Res 14: 57-363, 2006. ・消化管外アニサキス症では大網や腸間膜内に見られることが多いが、腹腔内であればどこにでも生じる可能性がある。
白根ら; 日小外会誌 56: 414-20, 2020.

【診断】
・確定診断は切除標本からアニサキス幼虫に特徴的な病理所見を同定することでなされる。
・特徴的な病理所見は双葉状側索、レネット細胞、著明な好酸球浸潤を伴った肉芽腫形成である。
末梢血液像での好酸球増加は寄生虫疾患の可能性を示唆する
※本症例Eosino 9.5% ↑
白根ら; 日小外会誌 56: 414-20, 2020.

【治療】
・アニサキス虫体は通常1週間程度で死滅し、症状が改善する。原則は保存加療である。
Shibata K, et al; Surg Case Rep 6: 253, 2020.

【画像所見】
・腹腔内の脂肪織濃度上昇や腹水、炎症性結節等が報告されているが、特異的なものはなく、診断自体が困難な場合が多い
・原因不明の腸閉塞や腸重積、消化管穿孔として描出されることもある。
Shibata E, et al; Abdom Imaging 39: 257-61, 2014.
堀尾ら; 日消外会誌 40: 186-91, 2007.

 

 考察

画像所見から緊急手術を回避することはできたのか?

・鑑別疾患の中で大網捻転は原則として手術適応となる。
梗塞に至った場合は壊死部大網の切除が必要となる。
梗塞に至っていない場合でも捻転した大網が自然解除される事は少なく、捻転した大網の切除が必要となる。
高尾ら; 日小外会誌 57: 647-77, 2021.  →大網捻転を除外できるかどうかが治療方針に大きく関わる。

【大網捻転のCT画像所見】
・捻転した大網は周囲腸間膜より高吸収な脂肪組織を含む腫瘤様病変として描出される。
・腫瘤内部に渦巻き状/同心円状の層構造(whirl sign/tongue like formation)を認める。
→以上が大網捻転に特異的かつ重要な所見と考えられている。
吉田ら; 日消外会誌 35: 408-12, 2002.

【本症例では】
○ 周囲腸間膜より高吸収な脂肪組織を含む腫瘤様病変
× 渦巻き状/同心円状の層構造(whirl sign/tongue like formation)
whirl sign/tongue like formationの有無で鑑別可能か。
しかし..
明らかなwhirl sign/tongue like formationを認めない大網捻転の症例も存在する。
足立ら; 外科 76: 905-9, 2014. →結局、画像所見では寄生虫感染症と大網捻転の鑑別は困難である。


 Take home message

・消化管外アニサキス症の画像診断は非常に困難な場合が多く、外科的摘出後に判明する場合がほとんどである。
・腹腔内に非特異的な炎症性変化や結節をみた場合に鑑別に挙げても良いかもしれない。
・末梢血液像における好酸球増加が本疾患を疑うきっかけとなりうる。

 


参考文献

  • Barel O, et al; Gynecol Oncol Rep 17: 75-8, 2016.
  • Hochberg NS, et al; Clin Infect Dis 51: 806-12, 2010.
  • 石倉ら; 北海道医誌 63: 376-91, 1998.
  • 吉川ら; G.I.Res 14: 57-363, 2006.
  • 白根ら; 日小外会誌 56: 414-20, 2020.
  • 村木ら; 日内視鏡外会誌 18: 587-93, 2013.
  • Khanna V, et al; J Clin Diagn Res 9: DC22-4, 2015.
  • Shibata K, et al; Surg Case Rep 6: 253, 2020.
  • Shibata E, et al; Abdom Imaging 39: 257-61, 2014.
  • 堀尾ら; 日消外会誌 40: 186-91, 2007.
  • 高尾ら; 日小外会誌 57: 647-77, 2021.
  • 吉田ら; 日消外会誌 35: 408-12, 2002.
  • 足立ら; 外科 76: 905-9, 2014.
  • 原ら; 外科 84: 285-8, 2022.

 

   
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Moderator: 川上 直樹