メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患 MTX-associated lymphoproliferative disorders; MTX-LPD |
CT所見 |
・右肺門部や右下葉末梢に腫瘤あり
・右肺気管支血管束周囲に軟部影あり
・右肺中葉や下葉に小葉間隔壁肥厚あり
・右肺中葉や下葉に大小不同の結節あり
・両側鎖骨上窩、縦隔リンパ節腫大あり
・右胸水あり
【腫瘍マーカー】 | ||||
CA19-9 | 5.7 | U/ml | ||
CEA | 1.5 | ng/ml | ||
NSE | 6.8 | ng/ml | ||
シフラ | 1.2 | ng/ml | ||
SP-D | 17.8 | ng/ml | ||
SP-A | 14.6 | ng/ml | ||
SLX | 23.4 | U/ml | ||
SCC | 1.0 | ng/ml | ||
Pro GRP | H | 68.1 | pg/ml |
気管支鏡検査 |
全体的に気管粘膜の浮腫あり。
特に右気管支の中下葉入口部の浮腫が著明であった。
#7リンパ節に対し、超音波気管支鏡ガイド下針生検を施行
凝血塊に混在して個細胞性にリンパ球と思われる裸核状細胞が散見された。
これらの中には一回り大きな異型細胞がみられた。
再薄切した標本では1カ所でこれらの異型細胞が小集塊状になっている部分がみられた。
免疫組織学的な検索では、小集塊状の部分を含め異型細胞の多くはCD20陽性、CD79α陽性とBリンパ球のマーカーが陽性であり、またMIB-1(Ki-67)陽性率も高かった。
以上より、細胞形態と併せてdiffuse large B-cell lymphomaをはじめとするB細胞性リンパ腫の可能性が推測された。
・RA治療中のMTX使用患者に発生した発熱、リンパ節腫大や右肺腫瘤
・S-IL2Rが高値
・腫瘍マーカーの高値は認められない
MTX –associated lymphoproliferative disorders(MTX-LPD)を疑った
MTX投与を中止し、PSLのみで治療
上段:MTX中止前 下段:MTX中止4週間後 |
上段:MTX中止前 下段:MTX中止4週間後 |
・MTX投与中止後4週間で、右肺の腫瘤や気管支血管束周囲の軟部影、肺門部軟部影やリンパ節腫大は消失
・EB抗VCA IgG 160、EB抗EBNA 40 と高値
MTX –associated lymphoproliferative disorders(MTX-LPD) であったと考えられた。
MTX –associated lymphoproliferative disorders(MTX-LPD) |
・1991年にEllmanらが初めてMTX投与中の関節リウマチ患者に生じたリンパ腫として報告した疾患概念
・WHO分類では自己免疫疾患や炎症性疾患を基礎疾患に持つ患者で、
免疫抑制剤の使用中に発症したリンパ腫あるいはリンパ増殖性疾患を
”Other iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders”
(その他の医原性免疫不全に関連したリンパ増殖性疾患)に分類している。
・MTX投与中に出現したリンパ増殖性疾患をMTX-LPDと総称している。
・出現頻度は0.1%。
・MTX-LPD症例の原疾患の85%がRA治療中に発症する。
そのほか、尋常性乾癬や皮膚筋炎、リウマチ性多発筋痛症、皮膚T細胞リンパ腫の治療中に発症した報告例がある。
・MTX-LPDはリンパ腫の中でもB細胞型非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin’s lymphoma;NHL)が多く、
MTXの投与なしに発症したRA患者のリンパ腫と組織学的には相違がないとされている。
・一般のRA患者に発症するリンパ腫と比較して、発症までの期間は短い
・RA自体でリンパ腫の発生率が2.5倍と高いことからMTXがどの程度関与しているのかは不明だが、
MTXの中止によってLPDが消退する症例が認められていることからMTXが原因として考えられる。
【発生機序】
・RAによる免疫異常とMTXによる免疫抑制効果が関与。
・RAでは特定のクローンの自己反応性T細胞が存在し、
このT細胞の存在下でリウマトイド因子など自己抗体を産生するB細胞が活性化されている。
更にMTXが投与されるとMTXによる免疫抑制効果でウイルス感染や不顕性感染ウイルスの再活性化がおき、
細胞のクローナルな増殖を誘発すると考えられている。
・ウイルス性感染では特にEpstein-Barr virus(EBV)が注目されておりMTX-LPDの大部分でEBVの活性化が認められている。
そのような患者ではMTX投与を中止するのみで寛解することが報告されている。
【臨床所見】
・発熱、体重減少、表在および深在リンパ節腫大
・リンパ節外病変の出現頻度が高い(肺病変18%、口腔鼻咽頭16%、皮膚9%)
【検査所見】
・CRP、LDH、sIL-2Rの上昇 (通常のリンパ腫同様)
【病理組織像】
・多彩であるが、び漫性大細胞性型B細胞性リンパ腫(DLBCL)が最も多く全体の35ー60%を占め、Hodgkinリンパ腫(HL)が次に多く12ー25%
【診断】
・MTX投与例に発熱やリンパ節腫脹などの臨床所見を認めた場合に本症を疑う。
・LDH、sIL-2Rが著明に上昇している場合は本症を積極的に疑いリンパ節生検を行う
【治療】
・即座にMTXを中止する。
・通常、MTX中止後1ヶ月以内にほぼ30%は軽快し、特にEBV陽性の症例では60%に及ぶ。
・中止後2週間でも臨床的症状の改善がなければ化学療法を考慮する。
・MTX中止で寛解した症例の再発の報告もあり長期的なfollow upが必要であり、MTXの投与は避けるべきである。
後町 京子 . メトトレキセート肺炎/関連リンパ増殖性疾患を同時発症した関節リウマチの1例 日呼吸誌 8 (2) 2019 P123-127
阿部 博和 . MTX関連リンパ増殖性疾患発症が疑われた関節リウマチ患者の1例 日本内科学会雑誌 第100巻 第11号 平成23年 P3339-3342
Take home message |
RAの臨床において、MTXの使用中に多発リンパ節腫大や肺腫瘤ほか多臓器に腫瘤性病変が出現した場合、LPDを鑑別の一つとして念頭に置き早期診断、治療を行う必要がある。
参考文献
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