胆管内乳頭状腫瘍 intraductal papillary neoplasm of the bile duct(IPNB) |
画像 |
▼ CT 上段:単純/動脈 優位相 下段:門脈相/平衡相 |
肝左葉に境界明瞭/辺縁平滑な円形腫瘤(→)を認める。 |
▼ CT 上段:単純/動脈 優位相 下段:門脈相/平衡相 |
単純CTでは低吸収域と高吸収域が混在している。 造影後は低吸収域の内部に早期濃染/持続性増強効果を示す軟部濃度(*)を認める。 |
▼ CT:平衡相 |
肝内胆管(B3)は拡張し、腫瘤と連続(→)している。 |
▼ MRI:T1WI in phase/T1WI opposed phase/T2WI |
chemical shift imagingで脂肪含有を示唆するような信号低下はない。水信号の内部に充実成分(*)を伴う。 |
▼ MRI:DWI(b=1000s/m²)/ADC map |
充実成分に一致して拡散制限を認める。 |
▼ MRI:脂肪抑制T1WI/EOB造影門脈相/EOB造影肝細胞相 |
CT同様に充実成分に増強効果を認める。肝細胞相では低信号を示す。 |
▼ MRI:T2WI |
肝内胆管(B3)は拡張(→)し、腫瘤と連続(→)している。 |
▼ MRI:EOB造影肝細胞相 軸位断/冠状断/矢状断 |
拡張したB2肝内胆管が腫瘤と近接している。 |
▼ 約2ヶ月後のMRCP |
腫瘤下流の胆道も軽度拡張している。 |
【画像所見まとめ】
肝左葉の境界明瞭/辺縁平滑な円形腫瘤
嚢胞成分を主体に、拡散制限や増強効果を示す充実成分が混在
拡張した肝内胆管との交通あり
↓
術前診断:胆管内乳頭状腫瘍(IPNB:Intraductal papillary neoplasm of the bile duct)
鑑別:肝粘液性嚢胞腺腫(MCN)、腫瘤形成性胆管癌、粘液性結腸癌の転移
↓
左肝切除術が施行された
病理診断 |
IPNB:Intraductal papillary neoplasm of the bile duct(Type1)
・胆管二次分枝を主座とする肉眼的に著明な粘液産生性を有する結節性病変を伴う嚢胞性腫瘤
・顕微鏡的に好酸性顆粒状胞体と類円形核を有する立方-円柱状細胞が、線維血管性または浮腫状間質を背景に樹枝状の乳頭状構造を形成
・高度異型病変だが明らかな浸潤成分はない
胆管内乳頭状腫瘍(IPNB) |
【定義】
胆管内で肉眼的に認められる、前浸潤性の乳頭状、絨毛状の上皮性腫瘤
【疫学】
平均年齢65歳、男女比3:2、胆管腫瘍の10〜30%(東アジア)/9%(欧米)、60〜70%が肝左葉発生
危険因子は原発性硬化性胆管炎(PSC)、肝内結石、肝吸虫症、胆道奇形、Gardner症候群など
【症状】
腹痛(24%)、肝機能異常(22%)、黄疸(16%)、発熱(12%)
粘液産生の多い症例では胆管炎、総胆管結石様症状もみられる
【治療】
切除(肝内胆管発生→肝切除、遠位胆管発生→膵頭十二指腸切除)
窪田敬一.臨床消化器内科,36(11):p1453-1458
Type1 | Type2 | |
膵IPMNとの類似性 | ○ | × |
好発部位 | 肝内胆管に多い | 肝外胆管に多い |
粘液過剰産生 | 〜80% | 〜10% |
病変部胆管の形態 | 瘤状、憩室状、円筒状 | 円筒状、紡錘形 |
上皮細胞異型 | 高度異型が多い | 全例が高度異型 |
異なる異型度の混在 | 時々(〜20%) | 稀 |
亜型 | 胃型、腸型、好酸型 | 腸型、胆膵型 |
間質浸潤 | 〜50% | >90% |
遺伝子変異 | KRAS、GNAS、RNF43 | TP53、SMAD4 |
予後(5年生存率) | 75.2% | 50.9% |
窪田敬一.胆道,34(4):p657-662
古川徹.胆道,36(2):p91-97
鑑別診断 |
非乳頭型胆管癌 | 胆道結石 | 総胆管嚢腫 |
・腫瘍部胆管は拡張ではなく狭窄 ・下流の胆管拡張はない |
・単純CTで高吸収 ・造影効果なし |
・閉塞機転や内部充実成分なし |
ほか
・乳頭型胆管癌の一部 ・微小な乳頭部癌
・転移性肝腫瘍 ・ 膵IPMNの胆管内浸潤or逆流
・再発性化膿性胆管炎
窪田敬一.胆道,34(4):p657-662
古川徹.胆道,36(2):p91-97
肝粘液性嚢胞性腫瘍(MCN) | 出血性肝嚢胞 |
・9割が女性(特に中年) ・左葉に多い(特にS4) ・多房性>単房性→夏みかん様 ・嚢胞内小嚢胞( cyst-in-cyst ) ・stained glass appearance |
・隔壁様構造や壁在結節がみられることがある ・壁在結節の点状・結節状早期濃染、遷延性の濃染範囲拡大 ・T2WIで壁在結節の濃染部高信号/辺縁低信号 ・嚢胞壁の石灰化 ・経過でのサイズ変化 |
ほか
・転移性肝腫瘍:ex.結腸粘液癌肝転移の胆管内浸潤 ・肝膿瘍
・胆管周囲嚢胞 ・リンパ管腫 ・重複胆嚢 ・多嚢胞性胆管過誤腫
・限局性Caroli病 ・腫瘤形成性胆管癌
山下康之.肝胆膵の画像診断(改訂第2版)
吉満研吾.即戦力が身につく肝胆膵の画像診断
Threads sign |
MRCPで肝外胆管に認める胆管壁に平行な多発性/連続性の線状/曲線状低信号域
濃縮したムチンによるT2短縮効果が関係していると考えられている
感度は低いが特異度はほぼ100%
Kovac,J.D.Abdominal Radiology,47:p1503-1504
まとめ |
肝左葉の嚢胞性腫瘍に対して、内部充実成分や肝内胆管との連続性を指摘することでIPNBの診断に至ることができた。
肝内胆管発生である点、嚢状拡張を認めた点、粘液過剰産生を示唆する下流の胆道拡張を認めた点はIPNB Type1として典型的であった。
IPNBは多彩な腫瘍形態をきたし多様な鑑別診断が挙げられるが、患者背景、胆管との連続性、拡張した胆道の下流ではなく内部に充実成分がある点、充実部下流の胆道拡張、threads sign、腫瘍マーカーなどは診断の一助になる。
参考文献
|