症例 8 70歳代 男性

術中の写真

十二指腸下行脚と水平脚の移行部に広範な断裂を認め(↑)、周囲に血腫(>)を形成していた。
 

確定診断:鈍的十二指腸損傷(ハンドル外傷)

鈍的十二指腸損傷
鈍的十二指腸損傷は腹部消化管損傷の6-16%を占め、受傷機転は交通事故が9割弱で大部分がハンドル外傷である。多くで複数の臓器損傷を伴う。
発生機序としては1.外力と脊柱との間の圧挫。 2.閉鎖係蹄の内圧上昇。 3.肝十二指腸間膜の牽引が考えられている。
損傷部位は下行脚(50-75%)が最も多く、続いて水平脚(30%)、球部(15%)、上行脚の順である。
合併損傷臓器は膵が最も多い(20%) が、血清アミラーゼの上昇は60‐80%に見られ、必ずしもすべてで見られるわけではない。
後腹膜腔損傷は限局するために理学的所見に乏しくこれが診断の遅れにつながり、死亡原因となる。受傷から手術までの時間も長いほど術後合併症(縫合不全、膿瘍、出血)が多くなり、死亡原因となる。

画像所見
十二指腸損傷の腹部単純X線所見は右腸腰筋影の消失や後腹膜気腫像(13-58%)、Free airなどがあるが、十二指腸損傷に特異的ではなく意義は低いとされている。
CT所見としては後腹膜(傍腎腔、膵周囲)のガス像や液体貯留、損傷部の壁肥厚がある。ガス像が観察されることは受傷4時間以内では22%と低く、 4時間以降では73%から100%と報告され、繰り返しCTを行うことが重要とも言われている。しかし血腫以外の非全層性損傷の診断は困難で、この場合には水溶性造影剤による十二指腸造影が有効とされている。

文献

  1. Allen GS, et al: Delayed diagnosis of blunt duodenal injury: An avoidable complication. J Am Coll Surg 1998; 187:393-399.
  2. Weigelt JA: Duodenal injuries. Surg Clin North Am 1990; 70: 529-539.
  3. 木村理、他:症例からみた膵外傷の病態・診断・治療の問題点。山形大学医学部 第一外科ホームページhttp://www.id.yamagata-u.ac.jp/SurgI/kyouju/suigaishou.html
 
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 moderator:阿部 克己 ・小須田 茂


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