症例5 40歳代 女性

確定診断:腫瘍様に見えた多発性硬化症の一例
    (Tumefactive multiple sclerosis)

・多発性硬化症は中枢神経内に多数の脱髄性病変が散在し、それらが増悪、寛解を繰り返して出現するのが特徴である。今回の症例は急性期脱髄性病変が腫瘍様に出現した症例である。
・Tumefactive multiple sclerosisに関して、病変部大きさは約2cm大で、辺縁部に途切れた造影効果(open ring enhancement)を認める。女性に多く、平均年齢は37歳である。発症はけいれんや失語などである。

[MSのMR所見]
・T2強調画像やFLAIR画像での深部白質に生じる高信号領域(側脳室と垂直に外側方向に広がる)
・一過性造影効果を示す。(結節状(68%)、リング状(23%)、腫瘤様(稀)の造影効果を示す。6ヶ月以内に9割が消失する。)この中のリング状造影効果をopen ring enhancementと言われ特徴的である。

[MSのMRS所見]
・急性期:NAA低下、ChoとLac上昇。その意義:軸索障害、脱髄、嫌気性解糖系亢進
・慢性期:ほぼ元のレベルに回復(急性期に生じる浮腫が減弱・消失するため)
・正常に見える白質(NAWM:normal appearing white matter)におけるMRS所見
 →MRIで病変を検出する数ヶ月前にChoやlipidの上昇を認める。また、NAA低下もある。
 

経過観察

頭部MR  右1か月後
 

参考文献

  1. M.Law et al. Spectroscopic magnetic resonance imaging of a tumefactive demyelinating lesion. Neuroradiology 2002;44:986-989
  2. Amit M. Saindane et al. Proton MR Spectroscopy of Tumefactive Demyelinating Lesions. AJNR 2002;23:1378-1386
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moderator :中西 淳、尾崎 裕、黒崎喜久、前原忠行


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