血管肉腫(右房),多発肺転移 |
心嚢液所見(初診から5日後)
・暗赤色血性.
・RBC 308万/μl (静脈血 393万/μl)
・細胞診 class 2
・培養
グラム陽性嫌気性桿菌(+) ← おそらくcontamination
抗酸菌陰性
・心嚢液中CEA,ADA上昇なし
心嚢穿刺後に主訴は軽快.
心嚢液の微生物学的・生化学的・病理学的検索を行ったが診断に至らず,退院,経過観察となった.
多発肺結節の増加・増大があり,初診から約6か月後に
胸腔鏡補助下左肺下葉部分切除術が行われた.
病理所見 |
左肺下葉部分切除検体 |
・割面に8mmまでの多発結節性病変.背景肺組織の鬱血,出血高度.
・組織学的には,抗酸性胞体を持つ腫瘍細胞が胞巣および毛細血管 を形成するように増生.
・血管壁を中心に顕微鏡的な転移が多発.
・免疫組織学的にはvimentin(+),cytokeratinE1/AE3(-), Factor VIII(+>-),CD34(+>-),CD31(->+),D2-40(-).
病理診断:血管肉腫の多発肺転移
画像所見:胸部単純X線 |
初診時/心嚢穿刺後/5か月後 |
初診時
・ 心拡大,氷嚢型.
・気管分岐角開大.
・両肺に複数の不整形小結節.
5か月後
・右第2弓,左第4弓の突出が再度増強.
・両肺多発結節.下肺野優位. 増加・増大. 境界不鮮明,円形〜不整形.
・結節周囲に境界不鮮明な濃度上昇.
造影CT 初診時 ・両肺多発結節. ・ 円形〜不整形,軟部組織濃度. ・ 周囲に境界不鮮明なすりガラス影を伴う. ・ 分布に規則性は無い. ・高濃度(CT値 40HU前後)の心嚢液貯留 ・両側少量胸水貯留. periportal collar.← 右心不全徴候 |
鑑別診断
高濃度の心嚢液貯留.
・ 癌性心嚢炎
・ 外傷,大動脈解離,急性心筋梗塞後(心破裂)
・ 心膜炎(とくに感染性)
・ 粘液水腫
両肺多発結節,ランダム分布
・ 転移性腫瘍
・ 結核
・ 真菌感染症
・ 感染性心内膜炎
5か月後 造影CT | ||
・多発肺結節は下肺野優位に分布し増加・増大. ・ほぼ結節周囲に一致する境界不鮮明なすりガラス影. すりガラス影も拡大. ・ 右房壁に不均一かつ強く増強される充実性腫瘤. ・右房は穿孔し瘤状に拡張,内腔に多数の粗大な血栓. ・多発肺結節の一部に大血管内腔と同等の強い増強. |
血管肉腫:一般的事項
あらゆる部位に生じうる.
高齢者の皮膚,とりわけ頭頚部,中でも頭蓋に多い.
高悪性腫瘍.1年生存率およそ50%.
肺転移が高頻度.
心原発血管肉腫
心原発の悪性腫瘍中で最多,およそ1/3を占める.
右房自由壁に好発.次いで心膜.
男:女=1.5〜2:1
右心不全または心嚢液貯留による症状が発見契機.
血管肉腫の肺転移
Tateishiらの報告1)によると,
血管肉腫肺転移の胸部CTにおける形態は
多発充実性結節(63%)
多発薄壁性嚢胞(21%)
単発充実性結節(8%)
上記の混合型(8%)
全体の42%が周囲にすりガラスを随伴.
嚢胞性転移全例,混合型転移の1例に気胸and/or血胸発生.
参考文献
1) Tateishi U, et al. Metastatic Angiosarcoma of the Lung: Spectrum of CT Findings. AJR 2003; 180: 1671-4
2) Andrew KB et al. Best Cases from the AFIP: Cardiac Angiosarcoma. RadioGraphics 2003; 23: S141-5
3) Benjamin JH and Prachi PA. AJR Teaching File: Right Atrial Mass in a Woman with Dyspnea on Exertion. AJR 2009; 192: S49-52
4) 東 将浩. 画像診断と病理: 心臓血管肉腫. 画像診断 2007; 26: 806-7
5) 滝沢 信一郎ら. 心膜炎兆候にて発症した右房原発血管肉腫の1例. 心臓 2007; 39: 1008-12
6) 濱田 星紀. 稀に診る疾患の鑑別と病理 知っておきたい鑑別診断のポイント [心臓] 心膜外膜原発血管肉腫. 臨床画像 2000; 16: 968-71
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