トキソプラズマ脳炎 |
<今回のkey word>
・若年者
・基礎疾患なし
・脳皮髄境界部、基底核、脳幹に多発性に造影効果を示す疾患
脳皮髄境界部、基底核、脳幹に多発性に造影効果を示す疾患 | ||
・転移性腫瘍 | → | 原発巣なし |
・脳膿瘍 | → | 臨床的に否定 |
・結核腫 | → | 検査所見で否定 |
・トキソプラズマ脳炎 | → | HIV抗体(ー) |
・クリプトコッカス症 | → | HIV抗体(ー) |
・悪性リンパ腫 |
その他の検査所見
<髄液検査>
ACE、リゾチーム、ピルビン酸、乳酸値 → 異常なし
<特殊検査>
抗核抗体、抗SS-A/SS-B抗体など各種自己抗体、β-Dグルカン、ACE、乳酸 → 異常なし
<免疫>
CD4/CD8 → 異常なし
<感染症>
抗酸菌:(ー)、HIV抗体:(ー)、CMV抗体:(ー)、クリプトコッカス抗体:(ー)、アスペルギルス抗体:(ー)
臨床経過
入院後、嚥下・構音障害、複視が出現し、急遽ステロイドパルスが施行されたが、神経所見の改善なく、
画像所見の増悪も認めたため感染症を強く疑ったところ、トキソプラズマ抗体高値であった。
トキソプラズマ抗体:20480倍
ステロイド パルス後 → |
臨床経過
トキソプラズマ脳炎として治療を開始し神経所見の改善、MR所見の消失を認めた。
本症例はHIV(ー)であり、海外渡航歴は頻回であったが、感染源と思われる猫との接触歴、
生肉の摂食、免疫不全状態を示唆する所見がなかったため診断困難であった症例である。
トキソプラズマ脳炎
・Toxoplasma gondii(T.gondii)の感染によって発症
・ 細胞内に寄生する原虫で、ネコ科の動物の糞便中に排泄されたオーシストあるいは食肉中の嚢子の経口摂取から感染が起こる。
・ 通常無症候性感染であるが、CD4<100ulに低下したときに、慢性潜在性に感染していたものが、再活性化して発症する。
・ T.gondiiは中枢神経系において免疫系の作用が及びにくいためもっとも再活性化しやすく、
AIDS患者でみられる中枢神経系の日和見感染のうち、もっとも頻度が高いのがトキソプラズマ脳炎である。
トキソプラズマの生態
経口感染により、腸管壁から宿主体内に進入し、血流にのって全身にひろがる。
宿主の細胞に侵入し原虫は増殖を行うが、やがて宿主細胞が耐え切れなくなり破裂し、再び原虫が周囲の細胞に侵入して増殖をしていく急増虫体と呼ばれるものと、シストを形成してそのなかでゆっくり増殖を続ける緩増虫体と呼ばれるものがあり、さまざまな画像所見に影響していると考えられる。
MRI所見 | |||||
・ 皮質、皮髄境界部、基底核に好発 | |||||
・ 多発性、リング状の造影効果 | |||||
・ T2WI、造影T1WIにおけるtarget sign | |||||
T2WIのtarget sign: | central zoneが低信号 | ||||
intermediate zoneが高信号 | |||||
outer zoneが低信号 | |||||
ただし、T2WIで内部が低信号、辺縁が高信号を示すパターンのほうがよくみられる所見である。 | |||||
造影T1WIのtarget sign: | central zoneに強い造影効果 | ||||
intermediate zoneが等信号 | |||||
outer zoneに淡い造影効果 |
参考文献
・Masamed R,Meleis A,Lee EW,et al.Celebral toxoplasmosis:case review and description of a new imaging sign.
Clin Radiol.2009 May;64(5):560-3.Epub 2009 Jan 25.
・ Pradhan S,Yadav R,Mishra VN. Toxoplasma meningoencephalitis in HIV-seronegative patioents
:clinical patterns,imaging features and treatment outcome.Trans R Soc Trop Med Hyg.2007 Jan;101(1):25-33.Epub 2006
・ Batra A,Tripathi RP,Gorthi SP.Magnetic Resonance Evaluation of Cerebral Toxoplasmosis in Patioents with the Acquired Immunodeficiency Syndrome.Acta Rasiol.2004 Apr;45(2):212-21
≪≪症例提示へ戻る |