心臓(右心房)血管肉腫その肺転移 Cardiac angiosarcoma of the rt-atrium with lung metastases |
▼CT |
心嚢液貯留あり、やや不整形な小結節のランダム分布、少量の胸水、左肺優位に部分虚脱無気肺が認められる 右心房壁肥厚が認められる |
▼心筋MR(T2WI) |
脂肪抑制下T2WIで右心房自由壁に高信号を呈する壁肥厚がある |
▼心筋MR(造影) |
病変に造影効果がある |
▼Ga‐67シンチグラフィ(SPECT) |
SPECTでは右心房に淡い集積が認められる |
画像所見と鑑別診断
【心嚢液貯留】癌性・腫瘍性、心膜炎、外傷、大動脈解離、心筋梗塞による心破裂など
【右心房自由壁の肥厚(Ga-67弱陽性)】腫瘍、心筋症、肉芽腫性疾患など
【多発肺結節のランダム分布】転移性腫瘍、類上皮血管内皮腫、結核・真菌などの感染症、その他
【胸水・部分虚脱無気肺】腫瘍・反応性炎症など
経過1
・心嚢ドレナージ → 血性・細胞診 class1
・多発肺結節は指摘されたが、右心房病変は見落とされていた
・悪性腫瘍の肺転移疑いで、全身検索施行
子宮卵巣MRI、甲状腺エコー マンモグラフィー、乳房エコー 上部および下部の内視鏡検査 |
原発となる病巣なし |
|||
肺の結節に対し胸腔鏡下左肺下葉切除術 |
▼切除標本(左肺) | ▼術中迅速組織診(HE染色) | ||
異型多角形で好酸性封入体有する |
経過2
悪性腫瘍の肺転移の診断
↓
F-18 FDG‐PET/CT
▼PET MIP | ||
術中組織診でやはり腫瘍が考えられ、原発巣検索のために第45病日にPETCTを行いました。 | ||
右心房内に異常集積を認める |
▼FDG-PET/CT | ||
右心房壁肥厚に一致して異常集積あり (SUVmax:12) |
||
肺野条件では肺野に転移を思われる結節影がランダムに散在し、強いものはSUVmax:3の異常集積を認める |
▼病理組織診(免疫染色) |
||
|
CD34:陽性 |
最終診断
心臓(右心房)血管肉腫
その肺転移
Cardiac angiosarcoma of the rt-atrium with lung metastases
*特に病変と意識障害の原因となった病態について
→右心房原発の血管肉腫からの出血が心嚢内に貯留
→心タンポナーデからのショックによる意識障害
転移性肺腫瘍・肺は悪性腫瘍が転移をきたす部位として最多
・悪性腫瘍で死亡した患者の約20〜50%に認められる
・原発巣
【 統計的に罹患数が多い癌】乳腺、大腸、腎、子宮、前立腺、肝、頭頚部、肺
【上記以外でも肺に転移しやすい悪性腫瘍】甲状腺癌、絨毛癌、骨肉腫、精巣腫瘍、悪性黒色腫
・血管肉腫の肺転移は、充実性・嚢胞性と多彩
血管肉腫
高齢者の頭皮に好発(頭部顔面30%・肝17%・心臓12%)
乳癌治療後の慢性リンパ浮腫から発症(Stewart-Treves症候群)
放射線照射後発生
原発性心臓腫瘍 | ||
剖検例の0.0017〜0.033% | ||
良性腫瘍(3/4):粘液腫、横紋筋腫など | ||
悪性腫瘍(1/4):血管肉腫(1/3)→最多 | ||
脂肪肉腫、横紋筋肉腫、線維肉腫、 中皮腫、滑膜肉腫、悪性リンパ腫、他 | ||
右心房由来:粘液腫、血管肉腫が多い | ||
心膜由来:中皮腫が多い |
心臓原発血管肉腫【疫学】悪性心臓腫瘍の中で最多、右心房・心膜に好発、男女比 1.5〜2:1
【症状】胸痛、息切れ、倦怠感で発症
、 心膜浸潤→心嚢液貯留→タンポナーデ
【病理】免疫染色CD34陽性
【治療】原則外科的切除、術後に免疫療法や化学療法(レジメンは未確立)
、化学放射線治療で生存長期化の報告もある
【予後】不良(生存報告1週間〜53ヵ月)だいたい6-10ヶ月で血行転移で死亡、診断時に約80%の症例で遠隔転移あり
心臓血管肉腫における画像診断 | ||
【US】 | echogenic mass | |
隣接部位への浸潤も指摘しうるが、術者の技量に左右される | ||
【MRI】 | SE-T1WI : heterogeneous; “cauliflower” appearance SE-T2WI : heterogeneous with hyperintense areas SSFP-GE : heterogenous, partly hyperintense CE Gd-DTPA : signal enhancement “Sunray appearance” |
|
【FDG-PET/CT】 | 集積陽性の報告多い SUVmax:7.7(range:5.4〜9.9) | |
【血管造影】右心房の場合、右冠動脈から血流供給、vascularity 豊富 |
結語 | ||
・ | 心嚢液貯留により発症した心タンポナーデの原因検索にて多発肺結節がみられ、原発巣不明の肺転移とされてしまった症例である。 | |
・ | FDG-PET/CTが施行され、心臓腫瘍が明瞭に検出され、これまでの画像一連を見直し、原発性心臓血管肉腫とその肺転移との診断に至った。 | |
・ | しかし、心エコー、胸部CT、心臓MRI等の検査で心臓腫瘍が見落とされてしまったことが悔やまれた痛恨の1例である。 |
≪≪症例提示へ戻る |