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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第335回症例症例:呈示
第 335 回 東京レントゲンカンファレンス[2012年4月26日]
症例7 80歳代 女性 
 肝エキノコックス症
 liver echinococcosis

 

[国立感染症研究所からの報告書]
ご依頼のありました患者さんについて、イムノプロットキットを用いて抗体検査を行いましたところ、分子サイズ26/28,18,16,7 kDa のエキノコックス抗原に対する抗体が検出され、これは多包虫症のパターンと一致しました。

 

 エキノコックス症(Echinococcosis, Hydatid disease)

・キタキツネやイヌ、ネコ等の糞に混じったエキノコックスの卵を水や食物などからヒトが経口感染することによって起こる人獣共通感染症。
・卵は人の体内で幼虫になり、肝臓に寄生。
・肺、骨、脳などが冒されることもある。
・ヒトからヒトへの感染はない。
単包条虫  Echinococcus granulosus:牧羊地帯を中心に世界に広く分布(日本では稀)
多包条虫  Echinococcus multilocularis:北緯38°以上の寒冷地域に限局して分布
 日本では、北海道で年間10〜20例ほどの発生がみられる。

・北海道におけるエキノコックス症患者の年度別報告数は、近年では年間10〜20例程度で推移しており、1937〜2005年度の累計で499人(北海道立衛生研究所の資料による)

・北海道以外の多包虫症の発生は、2001年までの累計で77例
(そのうち51名は、北海道かシベリア・満州など国外での感染であると推定され、その他は感染ルートが不明)
(国立感染症研究所感染症情報センターの資料による)

ちなみに、呈示症例では
・北海道在住歴はない
・1979年に道南を旅行したが、普通の観光で、特に動物に接したりはしていない
・犬を飼っているが、普通の室内犬
・孫が北大大学院生(ヒトからヒトへの感染はない)

感染経路は不明

 

単包虫症

 

多包虫症

 

孤立性の嚢胞性病巣を形成し、内生出芽を繰り返して徐々に増大、機械的圧迫症状を呈する。

 

外生出芽を繰り返して蜂巣状の充実性病巣を形成し、周囲臓器へ浸潤性に拡大。

 

 

 治療

・切除が確実な治療法だが,発見時には広範囲に
・浸潤して切除困難な場合が多い。
・内服薬:アルベンダゾール(エスカゾール®)
・今回の呈示症例は高齢でもあり、本人・家族が手術を希望されず、前医で経過観察となっている。
・大きな病巣を形成して発症した後では完治はむずかしいので、北海道では早期発見のため行政による検診が行われている。

 

 補足

・エキノコックス症は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症予防法)において四類感染症に指定されている
・診断した医師は、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出ることが義務付けられている


 
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Moderator: 岡田 吉隆