頭蓋内髄膜腫内への乳癌の転移 metastasis of breast cancer to intracranial meningioma |
画像所見 |
【CT】
鞍上部に脳実質より高濃度を呈する境界は明瞭な腫瘤がみられる。
腫瘤は内部は均一で、石灰化はみとめない。
【MRI】 | ||
T2WI矢状断 | 造影後脂肪抑制T1WI矢状断 |
腫瘤内部は大部分はT1WI、及びT2WIにて脳実質とほぼ等信号を呈する。
腫瘤辺縁にdural tail signを伴う。
内部に一部T2WIにて高信号を呈する領域がみられる。T2WIにて高信号を示す領域は、その他の部分よりも強い造影効果を有する。
【FDG-PET/CT画像】 | ||
CT画像 | PET/CT fusion画像 | |
鞍上部病変の集積はmaximum SUV=7.2 |
Dural tail signを伴う報告がある頭蓋内病変 |
・髄膜腫 |
・多形膠芽腫 |
・Aspergillosis
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鑑別診断 |
硬膜に付着し、dural tail signを伴う病変の鑑別診断 | |
・Solitary fibrous tumor(hemangiopericytoma[HPC]) | |
:強く均一な造影効果を示し、dural tail signもしばしばみられる。CTでも高吸収値を呈し、髄膜腫とは鑑別困難な事が多い。良性であれば、FDG集積は低い。AnaplasticなHPCの場合、FDG集積を伴うが、大部分が形態不整でdural tail signを呈する事は少ない。 | |
・Meningeal malignant lymphoma | |
:稀だが、均一に造影され、典型的なdural tail signを伴うので、髄膜腫と鑑別が困難。通常はFDGの集積は高度。 | |
・Tumefactive hypertrophic pachymeningitis | |
:腫瘤様に硬膜が肥厚するタイプの肥厚性硬膜炎で髄膜腫に類似する。しかし、通常は他の領域に硬膜肥厚を伴う。 | |
・Rosai-Dorfman disease | |
:原因不明の非腫瘍性組織球増殖性疾患。術前に髄膜腫と診断されていた報告例が多く、鑑別が困難。しかし、圧排された脳実質の浮腫を伴う事が殆どでありT2WIやFLAIRで内部に低信号域を伴う事が多く、CTでは石灰化は殆どみられない。造影効果も強い。 | |
・Erdheim-Chester disease |
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:腫瘍全体としては良好な造影効果を有するが、内部に放射状の造影不良域を伴うという報告がある。 |
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・Chloroma(granulocytic sarcoma) | |
:画像所見は髄膜腫に類似する。急性骨髄性白血病、骨髄増殖性疾患、及び骨髄異型性症候群の診断時や経過中に見られる。本症例ではAMLを疑わせる所見はみられない。 |
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・硬膜転移:単発例では髄膜腫と鑑別困難なことがあるが、転移の方が骨の変化が強い事が多い。 | |
・Plasmacytoma:通常骨に変化がみられる。 | |
・髄芽腫、PNET:好発年齢が異なる。 | |
・ゴム腫:脳実質内辺縁部発生が多いが脳実質外発生もある。本症例では梅毒検査は陰性。 |
最終的な鑑別診断
・髄膜腫
・硬膜転移
・Tumor-to-tumor metastasis
病理標本 |
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HE染色 ・合胞状の増生を示す小型の髄膜腫細胞 (左上)。 ・明瞭な核小体を有する腫大した核と、比較的豊富な細胞質を有する大型の上皮様円形細胞(右下)。 |
特殊染色と免疫組織化学 | ||
Vimentin染色 ・上皮様円形細胞は陰性。 ・髄膜腫細胞は陽性。 |
Cytokeratin AE1/AE3染色 ・上皮様円形細胞は陽性。 ・髄膜腫細胞は陰性。 |
病理診断
髄膜腫(髄膜皮性髄膜腫)内への乳癌(浸潤性小葉癌)の転移
Tumor-to-tumor metastasis |
・頭蓋内腫瘍への転移を生ずる原発巣は乳癌が最多(50%)で、肺癌(30%)がそれに続く。
・転移先の頭蓋内腫瘍としては髄膜腫が最も多く報告されている。
・多発性骨髄腫やmarginal zone lymphomaといった血液腫瘍の髄膜腫への転移の報告例もある。
髄膜腫内へ乳癌が転移した場合の画像所見(報告例)
・中等度に造影される腫瘍内に、強く造影される領域が見られ、同部はT2WIにて背景の腫瘤よりも高信号を呈する。
・辺縁部が中等度造影され、中心部が強く造影される。
頭蓋内髄膜腫内への乳癌転移症例
・これまで国内外で合わせて39例の報告がある。
・発症年齢は23歳から79歳。
・全て女性。
・Meningothelial typeが11例(28%)、psammomatous typeが7例(18%)、fibrous typeが5例(13%)、transitional typeが4例(10%)、endotheliomatous typeが2例(5%)、atypical typeが1例(3%)。
髄膜腫が他の頭蓋内腫瘍と比べて転移を受け易い理由(仮説)
・ゆっくりと増大する良性腫瘍なので、進行の早い悪性腫瘍と比べて、長期間の曝露を受ける為。
・腫瘍内の代謝も低いので、転移した腫瘍が競合することなく成長できる。
・血流に富む腫瘍なので、血行性転移を受けやすい。
・Blood brain barrierが破綻しているので、癌細胞が到達しやすい。
・乳癌と髄膜腫は、疫学的に同時に起こりやすい。
・豊かなコラーゲンや脂質が悪性腫瘍が着床する発生母地として適していること。
・乳癌と髄膜腫は、C-Myc oncogeneの発現増加やE-cadherin蛋白の発現などの共通性があるので、両者の細胞間に特別な親和性がある。
治療
転移性脳腫瘍に準じた治療を行う。
癌の頭蓋外活動性病変が認められない場合 → 摘出+照射
頭蓋外に癌の活動性病変を認める場合 → 全身化学療法やホルモン療法。
まとめ |
•以前は、Dural tail signは髄膜腫に特徴的な所見と言われていたが、髄膜腫以外にもdural tail signを呈する病変は多数ある。
•画像上髄膜腫を疑う病変があり、腫瘤内に造影されるT2WI高信号域を伴っていた場合、悪性腫瘍(特に乳癌)(の既往)の病歴があれば、鑑別として髄膜腫内の悪性腫瘍の転移も考慮する必要がある。
参考文献
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・Sedrak P et al. Erdheim-Chester disease of the central nervous syttem:new manifestations of a rare disease. AJNR. 2011 Dec;32(11):2126-31
・Lin M et al. Neurosyphilitic gumma on F18-2-fluoro-2-deoxy-D-glucose(FDG) positron emission tomography:an old disease investigated with a new technology. J Clin Neurosci. 2009 Mar;16(3):410-2
・Lee et al. Metastases to meningioma. AJNR 1998 19:1120-1122
・Hui Zhu et al. Imaging characteristics of Rosai-Dorfman diseae in the central nervous sytem. Eur F Radiol. 2012 Jun;81(6):1265-1272
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