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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第354回症例症例:呈示
第 354 回 東京レントゲンカンファレンス[2014年9月4日]
症例4 60歳代 男性
肺腫瘍源性塞栓性微小血管症
PTTM(pulmonary tumor thrombotic microangiopathy)

 

画像所見
   
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胸部HRCT
・有意な異常所見を認めない

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胸部CT
・入院時に右心拡大を認める

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胸部造影CT(入院1日目)
・明らかな肺塞栓を認めない
・縦隔および両側肺門部リンパ節腫大を認める

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胸腹部造影CT(入院1日目)
・ 縦隔・小弯・腹部大動脈周囲のリンパ節腫大を認める

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FDG-PET(入院4日目)
・両肺に集積亢進を認めない
・縦隔・肺門リンパ節、脊椎に集積亢進の所見あり

 

入院後経過

入院1日目:
心電図、心エコーにて肺高血圧症の所見を認めた
肺血栓塞栓症を疑い、抗凝固療法を開始
安静時に鼻カニューレ3L/分の酸素投与を要した

入院4日目:
入院後より呼吸状態は徐々に悪化
安静時にリザーバ―付マスク10L/分の酸素投与を要した

入院5日目:
呼吸不全悪化のため死亡
原発巣検索のため胃カメラなど予定されていたが、翌日の入院5日目に呼吸不全悪化のため死亡した。
死因特定のため、剖検が施行された

 

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病理組織(肺)
比較的太い動脈から末梢の細動脈に多数の腫瘍細胞を認め、周囲にフィブリンや線維化、血栓を認める

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病理組織(胃)


診断

・Pulmonary tumor thrombotic microangiopathy(PTTM)
・Adenocarcinoma of the stomach

 

PTTM

【PTTMとは1)
・1990年にHerbayらが確立した疾患概念
・肺動脈の微小腫瘍塞栓により肺高血圧症をきたす病態
・多くは原因不明のまま短期間で死亡する
・原発巣:胃癌が過半数を占める
・組織型:大半が腺癌。特に粘液産生性腺癌 (印環細胞癌、粘液癌) の頻度が高い

【PTTMの機序1) 2)
➀末梢の肺動脈で腫瘍塞栓を生じ、周囲に血栓を形成
➁PDGFが筋線維芽細胞の増殖を促し、内膜が肥厚
➂肺動脈狭小化を来し、肺高血圧症を惹起

※PDGF;platelet-derived growth factor

【PTTMの進展経路3)
・大静脈系へ直接浸潤→右心系→肺動脈
・所属リンパ節→胸管→上大静脈→右心系→肺動脈

【PTTMの画像所見】
〈CT〉
 ・右心系拡大や肺動脈拡張(右心負荷)
 ・肺動脈に明らかな血栓や塞栓を認めない
 ・びまん性粒状影、小葉間隔壁肥厚、肺動脈の数珠状拡張4)
〈FDG-PET〉5)
 ・両肺に多発する集積亢進
〈肺血流シンチ〉6)
 ・両肺に多発する欠損像

【PTTMの診断3)
・一般的に生前診断は困難
・肺生検(経気管支的、CTガイド下)
・Swan-Ganzカテーテルを用いた肺動脈血細胞診

【PTTMの治療7)
・確立された治療法はない
・抗癌剤治療、抗凝固療法、肺高血圧症に対する治療

Take Home Message

原因不明の低酸素血症や肺高血圧症を呈する疾患として、PTTMも考えておく必要がある


 


 

参考文献
1.  von Herbay A. Cancer 1990; 66: 587-592.
2.  神崎由起子. 診断病理 2005; 22: 21−24.
3.  鈴木学. 日本呼吸器学会誌 2007; 45: 560−565.
4.  Franquet T. AJR 2002; 179: 897-899.
5.  Tashima Y. Clinical Nuclear Medicine 2009; 34: 175-177.
6.  Kitamura A. Case Reports in Pulmonology 2013; article ID259080.
7. 山口航. 日本呼吸器学会誌 2012; 1: 231−236.

 

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Moderator: 儀間 清悟