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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第364回症例症例:呈示
第 364 回 東京レントゲンカンファレンス[2015年11月26日]
症例1 60歳代 男性
Birt-Hogg-Dubé 症候群
Birt-Hogg-Dubé syndrome

 

【現病歴】他院CTで肺に異常影を指摘。
当初、LIP疑いで、シェーグレン症候群の有無を精査。
【家族歴】姉:同様の肺病変あり
【血液検査】免疫学的に異常はなさそう。膠原病は否定的。

所見のまとめ
・両肺に分布する多発肺嚢胞
・薄壁嚢胞
・サイズはさまざま
・胸膜下などに分布
・中下肺野優位
・嚢胞以外の所見なし
・腎に腫瘍なし
・胆摘後

Birt-Hogg-Dubé症候群
遺伝子検査で確定

 

 Birt-Hogg-Dube症候群

顔面頭頸部皮疹(線維毛包腫(fibrofolliculomas))
多発性肺嚢胞
腎腫瘍(Chromophobe RCC, Oncocytoma)

染色体性遺伝。Folliculin(FCLN)遺伝子

皮膚・肺病変(気胸合併多い)は20代からみられ、中高年になると腎癌を発生する。皮疹はアジア人では20%程度しか示さない。
・大腸、甲状腺、唾液腺に発生する腫瘍との関連が散発性に報告されているが、まだ直接的な関連は不明。

・性差なし

顔面頭頸部皮疹図
・線維毛包腫(fibrofolliculomas)
皮膚科学的診断は、5つ以上の顔面または体幹の丘疹と、少なくとも1つの組織学的に確認できる線維毛包腫がみられる人に対してなされる
Toro JR,et al. Arch Dermatol. 1999;135:1195–202.

➁多発性肺嚢胞
・20代から発症
・気胸の合併が多い。
・BHDでは90%で50代までに初発の気胸を起こす。
・肺嚢胞の分布に特徴あり。
Toro JR, et al. Am J Respir Crit Care Med 2007;175(10):1044–53.

➂腎腫瘍
Chromophobe RCC、Oncocytoma、hybrid chromophobe- oncocytomas,が多いとされるが、 clear cell carcinoma, papillary renal cancer, angiomyolipomaが発生したとする報告もある。
Toro JR, et al. Am J Respir Crit Care Med 2007;175(10):1044–53.

図

・薄壁嚢胞
・大きさはさまざま
・肺底部内側の胸膜下に多く分布
肺静脈・肺動脈に直接接することが多い
Tobino K,at el.  EurJ Radiol 2011;77(3):403–9.

 

 肺嚢胞性疾患の鑑別

・Lymphangioleiomyomatosis(LAM)・TSC-LAM
・Pulmonary Langerhans histiocytosis(PLCH)
・Lymphocystic interstitial pneumonia(LIP)
・Birt-Hogg-Dube syndrome


肺リンパ脈管筋腫症(LAM)
・LAM細胞は由来不明な深部リンパ組織より発生
  →胸管から血管内に移動し、肺病変(転移ないし播種)を形成。LAM細胞は緩徐に肺組織を破壊し嚢胞を形成。
結節性硬化症に合併:癌抑制遺伝子のTSC1orTSC2の生殖細胞系遺伝子変異・常優
単独発生(過半数):9割女性。遺伝性でなく、体幹性細胞変異によるTSC2遺伝子機能が失われ腫瘍化
【CT所見】全肺にランダムに多発する薄壁性嚢胞

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)
・成人発症PLCHは主に喫煙を原因とし予後良好(自然軽快や喫煙のみでの消失あり)。 
 当初、男性で多いとされたが喫煙女性の増加に伴い男女差なし
・小児発症PLCHは明らかな腫瘍性の性格あり。
【CT所見】
胸膜直下をspareする多発不整形嚢胞
小葉中心性結節併存も高頻度。

リンパ球性間質性肺炎(LIP)
・肺胞の間質および気腔にリンパ球や形質細胞が浸潤する良性リンパ増殖性疾患。
 嚢胞形成はリンパ球浸潤による気管支狭窄/閉塞による二次的な気管支拡張による。
Sjogren症候群、自己免疫性甲状腺疾患、AIDS、Castleman症候群の患者に発生することが多く、女性に多い。
【CT所見】すりガラス陰影、小葉中心性結節、気管支血管周囲束の腫大、小葉間隔壁の肥厚、嚢胞

PLCH 小葉中心性喫煙と密接に関係
不整形嚢胞、粒状病変
LAM ランダム、女性、少数〜無数
大きさ均一、結節性硬化の合併あり
BHD 小葉辺縁性嚢胞の所見のみ、数個〜数百
肺底部内側嚢胞内に突出する肺脈管
LIP Sjogren症候群などの基礎疾患あり、少数
すりガラス陰影小葉間隔壁の肥厚


 まとめ

・肺嚢胞性病変では嚢胞の分布形態に着目。
・肺底部内側胸膜下や肺動静脈に接する嚢胞をみた場合は皮膚病変、腎腫瘍の有無を確認し、Birt-Hogg-Dube症候群を考慮する。
・Birt-Hogg-Dubé 症候群情報ネット (BHD ネット)に相談窓口あり。



参考文献

  • Tobino K, et al. Eur J Radiol. 2011; 77: 403-409.
  • Tobino K, et al. Eur J Radiol. 2012; 81: 1340-1346.
  • Kumasaka T, et al. Histopathology. 2014; 65: 100-110.
  • Trotman-Dickenson B. Eur J Radio. 2014; 83: 39-46.
  • Birt-Hogg-Dubé症候群情報ネット(BHD ネット); http://www.bhd-net.jp

 

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Moderator: 江戸 博美