深部子宮内膜症(尿管浸潤) deep endometriosis(ureter invasion) |
画像所見 |
・左卵巣背側下方の充実部分(赤矢印)は ・左尿管内腫瘤(黄矢印)は |
・左卵巣背側下方の充実性病変(赤矢印)には 淡いFDG集積がみられた。 SUVmax:1.89 ・尿管内腫瘤(青矢印) 有意なリンパ節腫大や他の臓器に |
【画像所見まとめ】
・左卵巣嚢腫(内膜症性嚢胞疑い)
・背側下方(骨盤左側腫瘤)
増強効果のある充実性腫瘤(T1WI:やや低信号域〜等信域内部に点状高信号域/T2WI:高信号域)で近傍の左尿管に広く接している。
・左尿管内腫瘤
病変(信号値は上記同様)は骨盤左側の腫瘤近傍から膀胱-尿管移行部まで連続しており、尿管変形/拡張がみられる。
同病変の腎臓側では水尿管症/水腎症を認める。
・骨盤左側と尿管内の腫瘤はいずれも拡散制限なし
・尿細胞診で尿管腫瘤に悪性所見は指摘できない
・TMはCA125の軽度上昇のみ
・全身検索では、上記の病変以外に主だった病巣なし
鑑別診断 |
〈尿管を主座とする病変〉 | 〈女性生殖器/骨盤内軟部組織を主座とする病変〉 |
・血種や慢性炎症 ・繊維上皮性ポリープ ・尿管アミロイドーシス ・尿路上皮癌 ・悪性リンパ腫やMALToma |
・類内膜腺癌や明細胞癌(内膜症性嚢胞との合併) ・その他の卵巣悪性腫瘍 ・子宮体癌/子宮頸癌 ・血管肉腫や横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、悪性神経鞘腫 MFH、中皮腫、ミュラー氏腺肉腫などの悪性軟部腫瘍 ・2次性腫瘍(遠隔転移) ・血管腫や平滑筋腫、神経鞘腫、線維腫、リンパ管腫 などの良性軟部腫瘍 ・結核性腹膜炎などの感染症 ・深部子宮内膜症 |
【術前診断】
・尿路上皮癌
・悪性卵巣腫瘍
・悪性軟部腫瘍
・深部子宮内膜症
病変に対して手術が施行された。
病理所見 |
➀左卵巣単房性病変:
・内膜症性嚢胞。嚢胞壁にわずかな隆起がみられ、骨盤左側に直接浸潤していた。悪性所見はみられず。
➁骨盤左側腫瘤:
・周囲に線維や脂肪織がみられ、内部では内膜症病変が増生。悪性所見なし。
➂尿管内ポリープ状腫瘍:
・肉眼所見では、骨盤左側腫瘤は尿管壁を穿通し、尿管内にポリープ状腫瘤を形成。
・病理所見では、尿管組織と内膜症病変が混在。悪性所見なし。
内膜症様病変の免疫染色では上皮/間質でER(+)とPgR(+)。
間質でCD10(+)。
【診断】内膜症性嚢胞、深部内膜症、尿管浸潤
深部子宮内膜症 |
典型的には、
増強効果を伴う充実性腫瘤
少量の内膜腺と一部の出血成分
豊富な線維組織
という病理像を反映して、
MRIではT1WI:点状高信号域を含む等信号域/T2WI:低信号域を示すことが多い。
本症例では、
周囲に線維組織はあったが内部には内膜腺が増生していたためT2WIで高信号域になった
と考えられる。
子宮内膜症:尿管病変と術後再発 |
・尿路系子宮内膜症の頻度は子宮内膜症全体の1%ほど
尿管病変の多くは膀胱子宮内膜症に合併するといわれている。
・保存的手術の場合は5年以内に30%ほどが再発する。
・再発機序は機械的播種が想定され、手術時操作部位
(開腹部位直下、骨盤内腸管、鼠径部など)に多い。
・本症例では10年前に左内膜症性嚢胞摘出術(保存的手術)を施行
⇒同部位に再発し深部内膜症(骨盤腔浸潤)、尿管浸潤を伴ったと考えられる。
尿管内腫瘤について |
・本症例ではMRI上は深部内膜症としては非典型的な所見
・病理像では
尿管組織と内膜症様病変が混在
拡張/充血した血管と嚢胞状に拡張した腺腔が目立つが一部では内膜腺が不明瞭。悪性病変を疑う所見なし。
肉眼所見では、病変は尿管壁を穿通し尿管内にポリープ状腫瘤を形成。
・ポリープ状子宮内膜症(polypoid endometriosis)に合致する所見。
ポリープ状子宮内膜症:polypoid endometriosis |
内膜症性病変が進展性にポリープ状の腫瘤を形成。 画像所見上は悪性腫瘍との鑑別が困難なことが多い。
ポリープ型子宮内膜症 | 内膜症由来の悪性腫瘍 | ||
充実成分 | T2WI | 内部被膜様構造あり | 内部被膜様構造なし |
DWI | わずかに高信号域 | 高信号域 | |
ADCmap | 低下しない | 低下 | |
造影効果 | あり | あり | |
形状 | 辺縁平滑 | 不整形 | |
付随所見 | 腹水、播種など |
【尿管病変に対して術前精査】
・MRIで拡散制限なし/尿細胞診でClassU。
・膀胱鏡では膀胱内に肉眼的な病変を認めず。
尿管鏡では尿管は変形・狭窄してたが、尿管内病変は表面平滑で可動性のある有茎性ポリープ状腫瘍。
・組織診で明らかな悪性所見はみられず。
尿管上皮と平滑筋層がみられたが、周囲の結合織には内膜症様の血管/腺腔構造の増生がみられた。
⇒内膜症性病変の可能性が高い
術式:
単純子宮全摘+両卵管/左卵巣切除+深部子宮内膜症切除+左尿管部分切除/端端吻合
⇒左腎機能を温存できた
最後に |
・内膜症性嚢胞と非典型的な画像所見の
深部子宮内膜症、尿管浸潤を経験した。
・内膜症性嚢胞やその手術歴が既往にあれば(特に月経時症状がある場合)には悪性病変以外に同疾患を鑑別に挙げる必要がある。
参考文献
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