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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第402回症例 症例:呈示
第 402 回 東京レントゲンカンファレンス[2023年6月22日]
症例6 60歳代 男性
封入体筋炎
sporadic inclusion body myositis


 画像所見
 
大腿部 単純MRI
・大腿四頭筋を中心に脂肪変性萎縮非対称性に見られる
・同部位に一致してFsT2WIで高信号域が広がっている
 
・外側広筋と中間広筋の間の筋膜が蛇行


頚椎症では説明のつかない筋力低下があり、臨床的にはALSを念頭に考えられていた

画像的にはMRI所見で脂肪変性および特徴的な分布がみられたことから、封入体筋炎を疑った

 

 臨床経過

・神経学的に、大腿四頭筋以外にも両側深指屈筋第2指の筋力低下あり
・免疫検査では抗Ro-52抗体3+、抗Ku抗体±、MPO-ANCA陽性であったが、 その他の筋炎関連抗体はすべて陰性であった。
・筋生検:筋の大小不同と壊死再生線維を認め、一部には非壊死性線維への炎症細胞浸潤あり。一部に間質の増生所見あり。筋線維内に縁取り空胞を疑う所見あり、封入体筋炎の診断となった。

 

 封入体筋炎 Inclusion Body Myopathy(IBM)

・年齢 50歳以上 男女比 3:1で男性に好発
  欧米では50歳以上で最も多くみられる筋炎
・日本の有病率は9.83人/100万人 急増中
手指屈筋(深指屈筋)と大腿四頭筋が特に侵される
・緩徐進行性(症状発症から診断まで数年単位)
・CKは正常〜正常の10倍程度
・抗NT5C1A抗体
  抗 Jo-1 抗体などの一般的な筋炎特異的抗体は陰性
・根本的治療がないため、運動療法/ 作業療法推奨
・合併 HCV、HTLV-1
BRAIN and NERVE 70(4):449-457,2018

 

 封入体筋炎と鑑別疾患

・ALS(筋萎縮性側索硬化症)
・PM(多発筋炎)


封入体筋炎とALS
・運動ニューロン疾患のALSは症状やCKが上昇ない点や針筋電図所見が似ていることから封入体筋炎との鑑別困難なことがある。
・画像検査において封入体筋炎で特徴的に侵されやすい部位に着目し、同部位に筋萎縮や脂肪変性がみられた場合は封入体筋炎を疑って筋生検を考慮する。
筋疾患の骨格筋画像アトラス 編集 久留 聡 医学書院

封入体筋炎と多発筋炎
実は、病理所見も似ている
封入体筋炎は1970年代から「治療抵抗性の多発筋炎」と認識されており、多発筋炎と診断された患者が治療に反応しない場合に、封入体筋炎を疑うのが一般的であった
Dion, Elisabeth et al. The Journal of rheumatology vol. 29,9 (2002): 1897-906.
Guimarães, Júlio Brandão et al. Current rheumatology reports vol. 21,3 8. 14 Feb. 2019

・治療も異なる→多発筋炎はステロイド、封入体筋炎は治療抵抗性
・ステロイドの副作用など考慮すると、できるだけ早期に封入体筋炎と多発筋炎の区別をするべき

 

 封入体筋炎の画像

・骨格筋の脂肪浸潤>萎縮>浮腫
・大腿では大腿四頭筋(特に外側広筋)に分布
・下腿では腓腹筋内側頭
・前腕では深指屈筋に分布:特徴的な分布を示す
・undulating fascia sign(筋膜が萎縮した中間広筋と外側広筋の間に起伏状に描出される)
・しばしば非対称性

本症例でも両側前腕の筋力低下があり、MRIを撮影

特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathies:IIM)

 

 特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathies:IIM)

特発性炎症性筋疾患は免疫学的機序にとって筋線維が傷害される、様々な病態機序を背景に持つ疾患の集まり
・DM(皮膚筋炎)
・PM(多発筋炎)
・抗ARS抗体症候群
・IMNM(免疫介在性壊死性ミオパチー)
・IBM(封入体筋炎)
・非特異的筋炎
・その他
BRAIN and NERVE 73【2】 February 2021

封入体筋炎の病理像
封入体筋炎の筋病理像の特徴として、一般的な筋原性変化に加えて炎症所見と筋変性所見の混在が挙げられる
BRAIN and NERVE 70(4):449-457,2018

炎症所見としては   筋変性所見としては

多発筋炎と同様

 

封入体筋炎に必須

非壊死線維をCD8陽性T細胞が取り囲み、浸潤

縁取り空胞を伴う筋線維

Guimaraes, Julio Brandao et al.  AJR.  vol. 209,6 (2017): 1340-1347.

 

特発性炎症性筋疾患の画像的鑑別について
皮膚筋炎 多発筋炎 封入体筋炎 免疫介在性壊死性
ミオパチー
小児〜高齢者 成人女性に多い 中高年以降
やや男性に多い
36〜52歳
やや女性に多い
体幹・四肢近位など
筋膜、皮下組織
浮腫性変化
近位筋優位
全体、後方筋群
大腿四頭筋、深指屈筋

脂肪変性、萎縮
臀部、
内側・後方筋群

 


 Take home message

・中高齢の慢性進行性の筋疾患 では封入体筋炎の頻度が多い
・大腿四頭筋の異常信号を伴う脂肪変性優位の筋萎縮を見た場合は封入体筋炎も考える

 


参考文献

  • BRAIN and NERVE 70(4):449-457,2018
  • BRAIN and NERVE 73(2):117-135,2021
  • Guimarães, Júlio Brandão et al. Current rheumatology reports vol. 21,3 8. 14 Feb. 2019
  • Dion, Elisabeth et al. The Journal of rheumatology vol. 29,9 (2002): 1897-906.
  • Guimaraes, Julio Brandao et al. AJR. American journal of roentgenology vol. 209,6 (2017): 1340-1347.
  • 日本内科学会雑誌 110 巻 9 号 1981-1990
  • 筋疾患の骨格筋画像アトラス 編集 久留 聡 医学書院

   
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Moderator: 兵江 誉子