第311回 東京レントゲンカンファレンス
2009年2月26日開催
症例4 70歳代 女性
 
  右肺上葉切除後の中葉捻転
pulmonary torsion following right upper lobectomy
 

入院後経過
 ・開胸右上葉切除術(ND 2a)施行。
 ・翌日(1POD)右肺の透過性低下を認める。
 ・自覚症状は術後より続く軽度の呼吸苦のみ。

Vital sign(1POD)
BT 37.2 ℃, HR 84 bpm, BP 120/76 mmHg, RR 16 /min

血液検査(1POD)
・動脈血液ガス(Room Air
 PH 7.468, PaO2 88.8 mmHg, PaCO2 39.1 mmHg, PaHCO3− 27.7 mmHg, B.E. 3.8, SaO2 98.4 %
・血算 WBC 10,600 /μl, Hb 9.5 g/dl, Plt 184×103 /μl
・生化学 TP 5.3 g/dl, CK 1360 U/l, CRP 10.6 mg/dl  
その他はほぼ正常値

術前 胸部単純CT  
胸膜引きつれを伴う原発巣
(3 cm大の腺癌)


術直後(手術室) 1POD
胸部単純写真(AP) 胸部単純写真(AP)
残肺の拡張は良好 中葉の透過性が低下

胸部単純CT(1POD)  
肺野条件  縦隔条件
中葉全体の網状影  

中葉の気管支を同定できず 縦隔側の胸膜は肥厚(うっ血)
 


画像所見のまとめ
・手術直後に拡張良好だった中葉が、翌日に透過性低下。
・中葉に限局し、全体が網状影。
・中葉気管支は同定できない。
・胸膜は一部で肥厚(うっ血疑い)。

気管支鏡(1POD)  
中葉気管支は閉塞し、
ファイバーが通過せず

再手術
中葉捻転の診断で、再開胸した。
中葉は赤黒く固く腫張し、肝臓様であった。
肺門部で180度、時計回りに捻転していた。
これを解除して20分ほど待つも、うっ血の改善を得られなかった。
気管内の出血が始まった為、中葉を切除した。

摘出標本
中葉は緊満し、暗赤色調。うっ血と、
肺胞腔内・胸膜への広範な出血。 急性期の肺梗塞像
右上葉(pT1N0) 中葉

肺捻転のまとめ
手術や外傷が誘因。多くは無症状
頻度は、葉切除後の0.089〜0.3 %と報告。呼吸器外科医の30 %が経験。右肺上葉切除後の中葉捻転が最多。
・右上葉切除時は予防的に中葉と下葉を固定
・肺門部で血管が締め付けられ、肺梗塞。治療は大抵が捻転肺の切除

肺捻転の画像所見
・手術や外傷後に肺葉の急激な透過性低下
血管影の異常な走行(inverted vascular pattern)


肺捻転の画像所見
・手術や外傷後に葉の急激な透過性低下
血管影の異常な走行(inverted vascular pattern)
・虚脱した肺葉や、肺門の位置異常
気管支の狭小化

 参考文献
  1. Moser ES, Proto AV. Lung torsion: case report and literature review. Radiology 1987; 162: 639-43.
  2. Felson B. Lung torsion: radiographic findings in nine cases. Radiology 1987; 162: 631-8.
  3. Cable DG, Deschamps C, Allen MS, et al. Lobar torsion after pulmonary resection: presentation and outcome. J Thorac Cardiovasc Surg 2001; 122: 1091-3.
  4. Kanemitsu S, Tanaka K, Suzuki H, et al. Pulmonary torsion following right upper lobectomy. Ann Thorac Cardiovasc Surg 2006; 12: 417-419.



 
 

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Moderator:伊東 良晃