症例 2:10歳代後半 女性

診断

一過性脳梁膨大部病変
Transient callosal splenium lesion

一過性脳梁膨大部病変
・脳梁膨大部正中に生じる病変であり、T2WIおよびFLAIRで境界明瞭な卵円形の淡い高信号を示す。拡散強調画像では強い高信号を示し、ADC (apparent diffusion coefficiency)は低下。
・明らかな神経症状は伴わず、数日〜数週ほどで消失する予後良好な病変である。
・一過性のためvasogenic edemaであるともいわれたが、 最近の報告では、ADC低下があるのでcytotoxic edemaと考えられている。可逆性である理由は不明。
・通常、造影効果は見られない。造影効果が見られた症例でわずかなT2WI高信号域が残存した、との報告があり、より高度の障害を示唆していた可能性がある。
・文献検索可能であったものと自験例を含めた20症例において、平均年齢27.3才、男女比は9:11。偶然指摘される症例が多く、頻度は不明。
・てんかんおよび抗てんかん薬と関連した症例が多く報告されている。他、アルコール多飲、ウイルス(インフルエンザなど)感染、HUS(溶血性尿毒症症候群)、低栄養、低血糖、電解質異常など。
・正確な病理学的変化は不明で、さまざまな疾患に関連して生じ、複数の病態を含んだ概念と考えられている。
・以下のような仮説が言われている。
(1) てんかん患者の全般発作後に見られた。
→脳梁を介した発作の伝播に伴う白質の浮腫。
(2)抗てんかん薬の投与(特に急な減量/中止が多い)を受けている患者(てんかん/非てんかん)で見られた。抗てんかん薬の中止によって消失した。
→抗てんかん薬による白質障害(AVP:arginine-vasopressinやGABAを介した水分バランス異常?)

脳梁膨大部病変の鑑別診断

多発性硬化症 PRES (posterior reversible encephalopathy syndrome)
脳梗塞 脳腫瘍:特に神経膠腫、悪性リンパ腫
DAI(diffuse axon injury) 感染後脳症:
ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)など
高山病 副腎白質ジストロフィ
Marchiafava-Bignami病 5-FU脳症

・基本的に白質に異常信号を生じうる疾患。
・いずれの疾患も、膨大部正中に限局した病変はまれ。
・特徴的な経過・所見を有するものが多い。

本症例における検討

・頭痛・後頚部痛の訴えが続き、マイコプラズマ感染にウイルス性髄膜炎の合併が臨床的に疑われたが、確定診断がつかないままに改善した。
・てんかんの既往があるが、今回の経過中には発作および抗てんかん薬投与のいずれもない。
→前者の関与が考えられるが、不明確。

まとめ

・一過性脳梁膨大部病変を経験した。過去の報告と同様の画像所見と臨床経過であったが、正確な病態は不明なままである。
・脳梁膨大部に異常信号を呈する疾患は多く挙げられるが、同部に限局した特徴的な所見と臨床経過から、鑑別は可能と思われた。

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Moderator:戸田 一真

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